要約
内面的に生じている感情を、表情や声、身振りなどに出さないよう意識的に抑え込む反応焦点型の感情制御戦略である。
詳細解説
学術的・科学的定義
表出抑制とは、すでに生じている感情を、表情、声、身振り、言葉に出さないよう意識的に抑える感情制御方略である。ジェームズ・グロスの感情制御プロセスモデルでは、感情が発生した後の反応調整に位置づけられる。外からは落ち着いて見えるが、内側の感情そのものを必ずしも弱めるわけではない点が重要である。
主要な機能・メカニズム
表出抑制では、前頭前野などの制御機能を使って、表情や行動の出力を抑える。しかし、感情がすでに発生した後に抑えるため、認知的負荷が高く、身体的緊張や生理的覚醒が残りやすい。ポジティブ感情の表出まで弱まり、他者との自然な交流も妨げられることがある。本人はうまく隠しているつもりでも、周囲には不自然さや距離感として伝わる場合がある。
混同しやすい概念との違い
表出抑制は、感情制御全体と同じではない。感情制御には、状況を選ぶ、注意を変える、認知的再評価をするなど、感情が強くなる前に介入する方法もある。表出抑制はその中でも後段階の方法であり、緊急時には役立つが、慢性的に使うと負担が大きい。また、感情を丁寧に扱うことと、感情を表に出さないことは別である。
科学化幸福論との関連性
本サイトにおける位置づけ
本サイトでは、表出抑制を、KOKOROの貯水槽モデルにおいて水の出口を無理に塞ぐような高コストの感情制御として位置づけている。我慢やポーカーフェイスを美徳とする発想が、実際には水質を悪化させる場合があることを示す概念である。認知的再評価との対比で理解すると重要性が分かりやすい。
幸福論における意味
幸福を保つには、感情を何もかも表に出す必要はないが、常に抑え込むことも危険である。表出抑制が習慣化すると、本人は疲弊し、周囲との心理的距離も広がりやすい。感情を爆発させるのではなく、早い段階で状況を変える、意味づけを変える、信頼できる相手に適切に言語化することが、より持続的な幸福につながる。
読み解く際の注意点
表出抑制は常に悪いわけではない。仕事、儀礼、緊急場面では、一時的に感情表出を抑えることが必要な場合もある。問題は、それが唯一の対処法になり、慢性的に感情を閉じ込めることである。また、感情を出すことを正当化して他者にぶつけるのも適切ではない。抑制、表現、再評価、距離の取り方を状況に応じて使い分ける必要がある。
References: Gross, J. J., & Levenson, R. W. (1993) "Emotional suppression: Physiology, self-report, and expressive behavior", Srivastava, S., et al. (2009) "The social costs of emotional suppression"

