要約
人間が持つ道徳的感覚は、進化の過程で備わった「ケア」「公正」「忠誠」「権威」「神聖」などの複数の生得的な基盤によって構成されているとする理論である。
詳細解説
学術的・科学的定義
道徳基盤理論とは、人間の道徳判断は単一の合理的原理ではなく、進化的に形成された複数の直感的基盤によって構成されるとする理論である。ジョナサン・ハイトらによって提唱され、ケア、公正、忠誠、権威、神聖、自由などの基盤が道徳判断に影響すると考える。人が何を善悪と感じるかは、どの道徳基盤を強く重視するかによって異なる。
主要な機能・メカニズム
道徳基盤は、理屈の前に直感として働く。ある人は弱者へのケアや公正を重視し、別の人は共同体への忠誠、伝統的権威、神聖性を重視する。政治的・宗教的・文化的対立では、相手が非論理的なのではなく、参照している道徳基盤が違う場合がある。この理論は、価値観の衝突を単なる知識不足ではなく、道徳的直感の違いとして理解する道具になる。
混同しやすい概念との違い
道徳基盤理論は、どの道徳が正しいかを決める倫理学理論ではない。功利主義や義務論のように、善悪の規範的基準を提示するものではなく、人間が実際にどのような直感的基盤で道徳判断をするかを説明する心理学理論である。また、価値観診断と近いが、特に道徳的評価に関わる直感の構造を扱う。
科学化幸福論との関連性
本サイトにおける位置づけ
本サイトでは、道徳基盤理論を、信仰、宗教、価値観、政治的感覚の違いを理解するための重要概念として位置づけている。信仰タイプや価値観プロファイルを考える際、人が何を「正しい」「許せない」「神聖だ」と感じるかを分解するための理論である。
幸福論における意味
幸福は、自分の道徳的直感と生活が大きく矛盾すると損なわれやすい。ケアを重視する人が冷酷な競争環境に置かれたり、忠誠や秩序を重視する人が流動的で個人主義的な環境に置かれたりすると、ストレスが高まる。道徳基盤理論は、自分がどの価値に反応しやすいかを知り、合う環境や関係を選ぶための手がかりになる。
読み解く際の注意点
道徳基盤理論を、相手の価値観を分類して切り捨てる道具にしないことが重要である。基盤の違いを知る目的は、相手を単純化することではなく、なぜ話が噛み合わないのかを理解することである。また、自分の道徳直感も絶対ではない。幸福のためには、自分の基盤を大切にしつつ、他者の基盤を理解する余地を持つことが必要である。
References: Haidt, J. (2012) "The Righteous Mind: Why Good People are Divided by Politics and Religion", Graham, J., & Haidt, J. (2010) "Beyond beliefs: Religions bind individuals into moral communities"

