公認会計士/経営コンサルが真面目に「幸福概念」を追求

哲学、心理学の他、脳科学、遺伝学、各種統計などを融合
臨床心理士/公認心理師が監修

カテゴリー
★★参照した学術研究★★

【学術データ】SDT,リベット実験,CBTからACTへの進化:動機づけと自由意志の神経科学

自由意志は幻想か?リベットの実験詳細と自己決定理論を解説。動機づけと神経科学の進化を、最新のSDTやACTの学術データから詳説します。

【学術データ】SDT,リベット実験,CBTからACTへの進化:動機づけと自由意志の神経科学

【共同研究について】 本分野にご興味をお持ちで、専門知識や学位のある方と情報交換などができればと考えております。 ※すべてのお問い合わせへの返信はお約束できかねます。あらかじめご了承ください。 [お問い合わせフォームへ]

【親記事はこちら】

[主体性の喪失とメランコリー]についての網羅的な詳細解説(メイン記事へ)

[受動意識仮説と幸福への道]についての網羅的な詳細解説(メイン記事へ)

[悲しみの受容と乗り越え方]についての網羅的な詳細解説(メイン記事へ)

[幸福の鍵「自己決定」]:所得よりも重要な満足度の源泉と、人生の主導権を取り戻すための指針(メイン記事へ)

記事に使用した各種の学術研究・論文(その19)(重要度★☆☆)

自己決定理論(SDT)による動機づけのメカニズム、リベットの実験が問いかける自由意志の有無、そして認知行動療法(CBT)から第三世代(マインドフルネス・ACT)への進化。幸福とメンタルヘルスを支える心理学の学術的背景と論文データを網羅解説します。

目次に戻る

自己決定理論(SDT)と動機づけのメカニズム

本記事(幸福の鍵は「自己決定」)では、自ら選択することの重要性と、それを支える心理的アプローチについて解説しました。

本記事(学術詳細記事)では、その背景にある「自己決定理論」のメカニズム、自由意志を巡る「リベットの実験」の論争、そして現代心理療法の主流である「認知行動療法(CBT)」の進化プロセスについて、詳細な学術データと論文に基づいて解説します。

デシとライアンによる「動機づけ」の革命

自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)以前の心理学、特に行動主義心理学では、人間は「アメ(報酬)」と「ムチ(罰)」によってコントロールされる存在だと考えられていました。しかし、エドワード・デシは1971年の画期的な実験(ソマ・パズル実験)により、この常識を覆しました。

デシは、パズルを解くこと自体を楽しんでいる学生に対し、金銭的な報酬を与えました。すると驚くべきことに、報酬がなくなった途端、彼らはパズルへの興味を失ってしまったのです。これはアンダーマイニング効果(過正当化効果)」と呼ばれ、外部からのコントロールが、人間の内発的動機づけ(やる気)を破壊することを科学的に証明しました。SDTは、動機づけを量(ある/ない)ではなく質(自律的/統制的)で捉え、自律性が高いほど幸福度とパフォーマンスが向上することを体系化しています。

[人生の主導権と自律性]:他者によるコントロールを排し、自らの価値観で「納得感」ある選択を導く方法(メイン記事へ)

代表的な学術研究

  • Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18(1), 105-115.
    • 大学生を対象に、パズル課題を用いて、外的報酬(金銭)が内発的動機づけに与える影響を実験的に調査した。
    • 外的報酬が与えられた群は、報酬が与えられなかった群と比較して、自由選択時間におけるパズルへの取り組み時間が減少した。
    • 外的報酬は、課題への興味や自発性といった内発的動機づけを低下させる可能性があることを示した。
    • 内発的動機づけは、自律性や有能感の欲求と関連していることを示唆した。
  • Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68-78.
    • 自己決定理論の包括的なレビュー論文であり、理論の主要な概念、仮説、実証的証拠をまとめた。
    • 自律性、有能感、関係性の3つの基本的心理欲求が、内発的動機づけ、社会的発達、ウェルビーイング(幸福感)に不可欠であることを示した。
    • 内発的動機づけは、学習、創造性、問題解決などの活動において、高いパフォーマンスと持続をもたらすことを示した。
    • 外的報酬、罰、過度な統制などの環境要因は、自律性や有能感の欲求を阻害し、内発的動機づけを低下させる可能性があることを示した。
    • 教育、組織、健康などの様々な分野における自己決定理論の応用可能性を示した。
  • Black, A. E., & Deci, E. L. (2000). The effects of instructors’ autonomy support and students’ autonomous motivation on learning organic chemistry: A self-determination theory perspective. Science Education, 84(6), 740-756.
    • 大学生を対象に、有機化学の授業における教師の自律性サポートと学生の自律的動機づけが学習に与える影響を調査した。
    • 教師の自律性サポート(学生の視点を理解し、選択肢を提供し、強制的な言葉遣いを避けるなど)は、学生の自律的動機づけを高めることを見出した。
    • 学生の自律的動機づけは、授業への積極的な参加、深い学習、高い成績と関連していた。
    • 教師の自律性サポートは、学生の有能感や興味を高め、内発的動機づけを促進することを示唆した。
  • Vansteenkiste, M., Lens, W., & Deci, E. L. (2006). Intrinsic versus extrinsic goal contents in self-determination theory: Another look at the quality of academic motivation. Educational Psychologist, 41(1), 19-31.
    • 大学生を対象に、学習目標の内容(内発的目標 vs. 外発的目標)が学習の質と成果に与える影響を調査した。
    • 内発的目標(個人的な成長、知識の習得など)は、深い学習、持続的な学習意欲、高い成績と関連していた。
    • 外発的目標(良い成績を取ること、他者からの承認を得ることなど)は、表面的な学習、短期的な学習意欲、低い成績と関連していた。
    • 内発的目標は、自律性や有能感の欲求を満たし、内発的動機づけを高めることを示唆した。
    • 外発的目標は、自律性や有能感の欲求を阻害し、外発的動機づけを強める可能性があることを示唆した。
  • Sheldon, K. M., & Elliot, A. J. (1999). Goal striving, need satisfaction, and longitudinal well-being: the self-concordance model. Journal of Personality and Social Psychology, 76(3), 482–497.
    • 大学生を対象に、目標追求、基本的心理欲求の充足、ウェルビーイング(幸福感)の縦断的な関係を調査した。
    • 自己一致目標(自分の興味や価値観に合致した目標)の追求は、基本的心理欲求(自律性、有能感、関係性)の充足を高めることを見出した。
    • 基本的心理欲求の充足は、時間経過とともにウェルビーイング(幸福感)を高めることを示した。
    • 自己一致目標の追求は、目標達成の可能性を高め、努力の持続を促すことを示唆した。
    • 自己一致モデルは、目標設定と幸福感の関係を理解するための有用な枠組みを提供した。

[理論解説]:自律性と内発的動機づけが自己成長を促すメカニズム(メイン記事へ)

目次に戻る

リベットの実験と自由意志の論争

0.5秒の遅れが突きつけた哲学的難問

「自分の意志で指を動かした」とあなたが思う時、脳はその0.5秒以上前にすでに動く準備を始めています。

ベンジャミン・リベットが1983年に行った実験は、哲学的な「自由意志」の概念に神経科学的な挑戦状を叩きつけました。被験者が「動こう」と意識した瞬間よりも、平均して約550ミリ秒も前に、脳内で運動準備電位(Readiness Potential: RP)が発生していることが明らかになったのです。これは「意識は脳の指令の追認機関に過ぎない」という受動意識仮説の根拠となりました。

しかし、リベット自身は自由意志を完全には否定しませんでした。彼は、脳が運動を準備してから実際に筋肉が動くまでの最後の約200ミリ秒間に、意識がその動作を「拒否(Veto)」する機能を持っている可能性を示唆しました。つまり、私たちには「Free Will(自由意志)」はないかもしれないが、Free Won’t(拒否する意志)」はあるかもしれないのです。近年の研究では、この準備電位は決定ではなく単なる「神経ノイズの蓄積」であるとする説(Schurger et al.)も有力視されており、議論は現在も続いています。

代表的な学術研究

  • Libet, B., Gleason, C. A., Wright, E. W., & Pearl, D. K. (1983). Time of conscious intention to act in relation to onset of cerebral activity (readiness-potential). The unconscious initiation of a freely voluntary act. Brain, 106(3), 623-642.
    • 被験者に自発的に指を動かすよう指示し、脳活動(準備電位:RP)と、動かそうと意識した時刻(W)を測定。
    • 準備電位(RP)は、被験者が指を動かそうと意識する時刻(W)よりも数百ミリ秒前から発生することを発見。
    • この結果は、自由意志による行為も、意識的な意図に先行して無意識的な脳活動が始まることを示唆。
    • 自由意志の存在への疑問や、自由意志は行為の抑制(veto)に関わるという解釈など、様々な議論を呼んだ。
    • 神経科学だけでなく、哲学、心理学、法学など、幅広い分野に影響を与えた。
  • Haggard, P., & Eimer, M. (1999). On the relation between brain potentials and the awareness of voluntary movements. Experimental brain research, 126(1), 128-133.
    • リベットの実験を改良し、事象関連電位(ERP)で、意識的な運動意図と脳活動の関係を詳細に検討。
    • 被験者に左右どちらかの手でボタンを押すよう指示し、準備電位(RP)と外側化準備電位(LRP)を測定。
    • 意識的な運動意図(W)は、準備電位(RP)開始後、外側化準備電位(LRP)開始前に生じることを確認。
    • 意識的な意図は、運動準備段階の後半、特定の運動が選択された後に生じることを示唆。
    • 自由意志は、運動の選択に関与する可能性を示唆。
  • Soon, C. S., Brass, M., Heinze, H. J., & Haynes, J. D. (2008). Unconscious determinants of free decisions in the human brain. Nature neuroscience, 11(5), 543-545.
    • fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用い、自由な意思決定の背後にある無意識的な脳活動を調査。
    • 被験者に左右どちらかのボタンを自由に押すよう指示し、脳活動を測定。
    • 被験者が意識的に決定する数秒前から、前頭前皮質と頭頂皮質の一部で、どちらを押すか予測できる活動を観察。
    • 意識的な決定に先行して、無意識的な脳活動が決定内容を準備している可能性を示唆。
    • 自由意志の神経基盤に関する議論に新たな視点を提供。
  • Schultze-Kraft, M., Birman, D., Rusconi, M., Allefeld, C., Görgen, K., Dähne, S., … & Haynes, J. D. (2016). The point of no return in vetoing self-initiated movements. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(4), 1080-1085.
    • リベットの実験における「拒否権(veto)」の可能性について、脳波(EEG)を用いて検証。
    • 被験者に準備電位(RP)が発生した後に、運動を中止するよう指示する実験。
    • 準備電位(RP)開始後、ある時点(point of no return)を過ぎると、運動を中止できなくなることを発見。
    • 準備電位(RP)が運動の準備過程を反映することを示唆し、「拒否権」には時間的制約があることを示した。
    • 自由意志の役割は、行為の開始ではなく、準備された行為の実行を最終的に許可するかどうかにある可能性を示唆。
  • Trevena, J., & Miller, J. (2010). Brain preparation before a voluntary action: Evidence against unconscious movement initiation. Consciousness and cognition, 19(1), 447-456.
    • リベットの実験における準備電位(RP)の解釈に疑問を呈し、代替的な説明を提案。
    • 準備電位(RP)は、特定の運動の準備ではなく、注意や期待などの一般的な準備状態を反映する可能性を主張。
    • 実験の結果、準備電位(RP)は、特定の運動を伴わない注意課題でも観察されることを示した。
    • 準備電位(RP)が必ずしも無意識的な運動準備を意味しないことを示唆し、リベットの実験の解釈に再考を促した。

[研究背景]:受動意識仮説を支持する最新の脳科学知見とfMRI研究(メイン記事へ)

目次に戻る

リベットの実験を支持しないとする学術研究

代表的な学術研究

  • Banks, W. P., & Isham, E. A. (2009). We infer rather than perceive the moment we decided to act. Psychological science, 20(1), 17-21.
    • リベットの実験と同様の課題で、運動の意図(W)と実際の運動のタイミングに関する主観的な判断を操作する実験。
    • 運動後に音を提示すると、被験者は実際の運動よりも遅く運動を意図したと報告する傾向があることを発見。
    • この結果は、運動の意図(W)の主観的なタイミングは、実際の意図の発生時刻を正確に反映しておらず、事後的に推測されたものである可能性を示唆。
    • リベットの実験におけるWの測定の信頼性に疑問を呈した。
  • Matsuhashi, M., & Hallett, M. (2008). The timing of the conscious intention to move. European Journal of Neuroscience, 28(11), 2344-2351.
    • リベットの実験を改良し、運動の意図(W)の報告に加えて、運動を抑制しようとしたが無意識的な運動が生じてしまった場合(S)の報告も求めた実験。
    • 準備電位(RP)は、Wよりも 前に発生するだけでなく、Sよりも前にも発生することを発見。
    • 運動の意図(W)は、準備電位(RP)の開始後に生じるが、運動の実行を決定する最終段階ではないことを示唆。
    • 意識的な意図は、無意識的な運動準備プロセスを監視し、必要に応じて修正する役割を持つ可能性を示唆。
  • Schlegel, A., Alexander, P., Sinnott-Armstrong, W., Roskies, A., Tse, P. U., & Wheatley, T. (2013). Barking up the wrong free: readiness potentials reflect processes independent of conscious will. Experimental brain research, 229(3), 329-335.
    • リベットの実験における準備電位(RP)が、特定の運動の準備ではなく、一般的な注意や期待を反映している可能性を検討した実験。
    • 被験者に、運動を伴わない注意課題を行わせ、その際の脳波を測定。
    • 運動を伴わない注意課題でも、準備電位(RP)と同様の脳波パターンが観察されることを発見。
    • 準備電位(RP)は、必ずしも無意識的な運動準備を反映しているわけではなく、より一般的な認知プロセスを反映している可能性を示唆。
  • Herrmann, C. S., Pauen, M., Min, B. K., Busch, N. A., & Rieger, J. W. (2008). Analysis of a choice-reaction task yields a new interpretation of Libet’s experiments. International Journal of Psychophysiology, 67(2), 151-157.
    • リベットの実験における準備電位(RP)が、運動の準備ではなく、時間推定のプロセスを反映している可能性を検討した実験。
    • 被験者に、時間推定課題と運動課題を組み合わせた課題を行わせ、その際の脳波を測定。
    • 準備電位(RP)の振幅と潜時が、時間推定の精度と関連していることを発見。
    • 準備電位(RP)は、運動の準備だけでなく、時間推定などの認知プロセスにも関与している可能性を示唆。
  • Miller, J., Shepherdson, P., & Trevena, J. (2011). Effects of clock monitoring on electrophysiological activity. Consciousness and cognition, 20(2), 340-349.
    • リベットの実験で用いられた時計(クロノメーター)の監視が、準備電位(RP)や意識的な意図の報告時刻(W)に影響を与える可能性を検討した実験。
    • 時計を監視する条件と監視しない条件で、準備電位(RP)とWを比較。
    • 時計を監視しない条件では、準備電位(RP)の開始が遅くなり、Wも遅れることを発見。
    • この結果は、時計の監視が、準備電位(RP)の発生やWの報告に影響を与えることを示唆し、リベットの実験の解釈に注意が必要であることを示した。

[批判的考察]:リベットの実験に対する異論と科学的再解釈の動向(メイン記事へ)

目次に戻る

認知行動療法(CBT)の進化とパラダイムシフト

第二世代CBT:アーロン・ベックと「認知モデル」の確立

1960年代、精神分析医であったアーロン・ベックは、うつ病患者の夢や自由連想を分析する中で、彼らに共通する「否定的自動思考」の存在に気づきました。彼らは自分自身、世界、そして将来に対して悲観的な見方をする傾向(認知の三徴:Cognitive Triad)があり、これが感情的苦痛の原因となっていたのです。

従来の行動療法(第一世代)が「行動」のみに焦点を当てていたのに対し、ベックは「出来事そのものではなく、認知(捉え方)が感情を作る」という、古代のストア哲学(エピクテトス)にも通じる洞察を科学的な治療構造へと昇華させました。これが第二世代CBTの中心概念である「認知転換(Cognitive Restructuring)」です。認知の歪みを特定し、より現実的な思考に置き換えるこのアプローチは、エビデンスに基づく心理療法の金字塔となりました。

第二世代CBTの有効性に関する研究

  • Butler, A. C., Chapman, J. E., Forman, E. M., & Beck, A. T. (2006). The empirical status of cognitive-behavioral therapy: A review of meta-analyses. Clinical Psychology Review, 26(1), 17-31.
    • 様々な精神疾患に対するCBTの有効性を検討したメタ分析である。
    • CBTは、うつ病、全般性不安障害、パニック障害、社会不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、幅広い精神疾患に対して有効であることが示された。
    • CBTの効果は、他の心理療法(精神力動療法など)や薬物療法と同等か、それ以上である場合があることが示された。
    • CBTの効果は、治療終了後も持続する傾向があることが示された。
  • Hofmann, S. G., Asnaani, A., Vonk, I. J., Sawyer, A. T., & Fang, A. (2012). The efficacy of cognitive behavioral therapy: A review of meta-analyses. Cognitive Therapy and Research, 36(5), 427-440.
    • 様々な精神疾患の患者を対象としたメタ分析の結果である。
    • CBTは、様々な精神疾患(不安障害、うつ病、PTSDなど)に対して、中等度から大きな効果を持つことが示された。
    • CBTは、他の心理療法(支持療法、精神力動療法など)と比較して、同等またはそれ以上の効果を持つことが示された。
    • CBTの効果は、治療終了後も持続する傾向があることが示された。

[エビデンス]:うつ病に対する薬物療法と認知行動療法の治療効果比較(メイン記事へ)

目次に戻る

第三世代CBT:コントロールから「アクセプタンス」へ

1990年代以降、認知の内容を変えることの限界が指摘され始めました。「シロクマのことを考えるな」と言われるとかえって考えてしまう(シロクマ効果)ように、ネガティブな思考を修正しようとする試みが、かえってその思考への執着を生むパラドックスが明らかになったのです。

ここから生まれたのが、マインドフルネスやACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)などの「第三世代CBT」です。これらは「思考の内容」を変えるのではなく、「思考との関係性」を変えることを目指します。その理論的基盤には、言葉と認知の関係を解き明かす「関係フレーム理論(Relational Frame Theory: RFT)」という厳密な基礎研究が存在します。RFTは、人間が言語を持つがゆえに、まだ起きていない未来の不安や、変えられない過去の後悔に縛られるメカニズムを説明し、そこから自由になるための「心理的柔軟性」の重要性を説いています。

第三世代CBTの有効性に関する研究

  • Öst, L. G. (2008). Efficacy of the third wave of behavioral therapies: A systematic review and meta-analysis. Behaviour Research and Therapy, 46(3), 296-321.
    • 第三世代の行動療法(ACT, DBT, MBCTなど)の効果を検証したメタ分析の結果である。
    • 第三世代の行動療法は、様々な精神疾患や問題(不安、うつ、慢性疼痛など)に対して、中等度から大きな効果を持つことが示された。
    • 第三世代の行動療法の効果は、伝統的なCBTと同等であることが示された。
    • ただし、研究数が少ないため、さらなる研究が必要であることが指摘された。
  • A-Tjak, J. G., Davis, M. L., Morina, N., Powers, M. B., Smits, J. A., & Emmelkamp, P. M. (2015). A meta-analysis of the efficacy of acceptance and commitment therapy for clinically relevant mental and physical health problems. Psychotherapy and Psychosomatics, 84(1), 30-36.
    • 臨床的に重要な精神的および身体的健康問題を抱える患者を対象としたACTの有効性を検討したメタ分析の結果である。
    • ACTは、様々な精神的および身体的健康問題(不安、うつ、慢性疼痛など)に対して、中等度から大きな効果を持つことが示された。
    • ACTの効果は、伝統的なCBTと同等か、場合によってはそれ以上であることが示された。
    • ACTは、生活の質の向上にも効果があることが示された。
  • Ruiz, F. J. (2012). Acceptance and commitment therapy versus traditional cognitive behavioral therapy: A systematic review and meta-analysis of current empirical evidence. International Journal of Psychology and Psychological Therapy, 12(3), 333-358.
    • 様々な精神的および身体的健康問題を抱える患者を対象とした、ACTと伝統的なCBTの効果を比較したメタ分析の結果である。
    • ACTと伝統的CBTは全般的に同等の有効性を示したが、いくつかの特定の研究ではACTがより優れていることが示された。
    • ACTは、心理的柔軟性、生活の質、価値に基づく行動などの側面で、伝統的なCBTよりも優れた効果を示す可能性があることが示唆された。
    • ACTと伝統的なCBTのどちらが優れているかは、対象者の問題や好みによって異なる可能性があることが示唆された。

[エビデンス]:うつ病に対する薬物療法と認知行動療法の治療効果比較(メイン記事へ)

目次に戻る

各アプローチの有効性比較

薬物療法 vs 心理療法

うつ病治療において、CBTは薬物療法(抗うつ薬)と同等の効果を持ち、かつ再発予防においてはそれ以上の効果を持つことが多くのメタアナリシスで示されています。これは、薬が「症状」を抑えるのに対し、CBTは思考パターンという「根本原因」にアプローチし、患者自身が対処スキルを習得するため(スキル効果)と考えられています。

代表的な学術研究

  • DeRubeis, R. J., Hollon, S. D., Amsterdam, J. D., Shelton, R. C., Young, P. R., Salomon, R. M., … & Gallop, R. (2005). Cognitive therapy vs medications in the treatment of moderate to severe depression. Archives of General Psychiatry, 62(4), 409-416.
    • 中等度から重度のうつ病患者を対象に、CBTと薬物療法(抗うつ薬)の短期効果を比較したランダム化比較試験である。
    • 16週間の治療後、CBT群と薬物療法群は、プラセボ群と比較して、有意に高い寛解率を示した。
    • CBT群と薬物療法群の間には、寛解率に有意差は認められなかった。
    • 重症度が高い患者では、薬物療法群の方が、CBT群よりもわずかに高い効果を示す傾向があった。
  • Hollon, S. D., DeRubeis, R. J., Shelton, R. C., Amsterdam, J. D., Salomon, R. M., O’Reardon, J. P., … & Gallop, R. (2005). Prevention of relapse following cognitive therapy vs medications in moderate to severe depression. Archives of General Psychiatry, 62(4), 417-422.
    • 上記のDeRubeis et al. (2005)の研究の追跡調査であり、中等度から重度のうつ病患者を対象としている。
    • 急性期の治療(認知療法または薬物療法)で寛解した患者を、認知療法継続群、薬物療法継続群、プラセボ群にランダムに割り付け、1年間の追跡調査を行った。
    • 認知療法継続群は、薬物療法継続群およびプラセボ群と比較して、再発率が有意に低かった。
    • 認知療法は、薬物療法と同等の急性期効果を持ち、かつ、再発予防効果が高いことが示唆された。
  • March, J., Silva, S., Petrycki, S., Curry, J., Wells, K., Fairbank, J., … & Severe, J. B. (2004). Fluoxetine, cognitive-behavioral therapy, and their combination for adolescents with depression: Treatment for Adolescents With Depression Study (TADS) randomized controlled trial. JAMA, 292(7), 807-820.
    • 12歳から17歳のうつ病の青少年を対象に、フルオキセチン(抗うつ薬)、CBT、併用療法、プラセボの効果を比較したランダム化比較試験である。
    • 12週間の治療後、併用療法群は、他の3群と比較して、有意に高い改善率を示した。
    • フルオキセチン単独群とCBT単独群は、プラセボ群よりも有意に高い改善率を示したが、両群間に有意差は認められなかった。
    • 併用療法は、青少年うつ病に対して、最も効果的な治療法である可能性が示唆された。
  • Cuijpers, P., Dekker, J., Hollon, S. D., & Andersson, G. (2009). Adding psychotherapy to pharmacotherapy in the treatment of depressive disorders in adults: a meta-analysis. Journal of Clinical Psychiatry, 70(9), 1219-1229.
    • 成人のうつ病に対する薬物療法と心理療法(主にCBT)の併用効果を検討したメタ分析である。
    • 薬物療法単独よりも、薬物療法と心理療法の併用の方が、治療効果が高いことが示された。
    • 併用療法は、治療終了時の症状改善だけでなく、追跡調査における再発予防効果も高いことが示された。
    • ただし、研究間の異質性が高く、結果の解釈には注意が必要であることが指摘された。
  • Weitz, E. S., Hollon, S. D., Twisk, J., van Straten, A., Huibers, M. J., David, D., … & Beltman, M. W. (2015). Baseline depression severity as moderator of depression outcomes between cognitive behavioral therapy vs. antidepressant medication: an individual patient data meta-analysis. JAMA Psychiatry, 72(11), 1102-1109.
    • ベースライン時のうつ病重症度が、CBTと抗うつ薬の効果に影響するかを検討したメタアナリシスである。
    • より重度のうつ病患者では、抗うつ薬がCBTよりもわずかに優れている可能性があることを示唆した。
    • しかし、軽度から中等度のうつ病患者では、CBTと抗うつ薬の効果に差はなかった。

[比較検証]:第2世代と第3世代(ACT等)の有効性に関するメタ分析結果(メイン記事へ)

目次に戻る

この記事に関するよくある質問

Q.デシとライアンの『自己決定理論(SDT)』が暴いた『アンダーマイニング効果』の罠とは?
A.内発的に楽しんでいた活動に対して、外発的な報酬(金銭等)を与えると、かえってやる気が低下する現象です。報酬が『有能感』や『自律性』を損なうためで、幸福になるには『自分が選び、納得しているか』という動機づけの質が重要になります。
Q.ベンジャミン・リベットの実験が示す、自由意志の限界と『拒否権(Veto)』。
A.指を動かそうと意識する前に脳が準備を始めているという発見ですが、リベットは同時に、脳の指令を最終段階で『止める』ための意識的な力が存在することも見出しました。これを『Free Won't(やめる自由)』と呼び、これこそが人間の真の主体性です。
Q.認知行動療法(CBT)からアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)への進化とは?
A.CBTが『思考を変える』ことに主眼を置くのに対し、ACTは『思考を受け入れ、価値ある行動を選ぶ』ことに集中します。自由意志の脆さを神経科学的に認めつつも、心理的柔軟性を持って人生にコミットする、より現代的で幸福に直結するアプローチです。
シェアする